鈴木孝弥
白人アーティストの超有名曲の、黒人アーティストによる優れたカヴァー・ヴァージョン10。それをラジオで連続で流すことを想定して並べました。
カヴァー・ヴァージョンの魅力は原曲とのコントラストなわけですが、人種のコントラストにはとりわけ最初に注意が向きます。ところが、ぼくが中学生の頃から興味を持ってきた、ビートルズやストーンズを筆頭とする白人R&Rバンドによる黒人のR&B/ブルーズの名カヴァーの数々は、自分より上の世代の音楽ファンやミュージシャンたちによってとうに評価が定まっていて、ぼくもそこから教えられて聴き始めたわけで、純粋に自分で掘り当てたカテゴリーじゃなかった。でもこの逆方向の10曲は、若い頃にほぼすべて自分でレコードを買いながら発見したものなので、とても愛着があるものばかりです。
(当時、音楽好きの先輩・同輩方にとっては、こんなのも既に一般教養だったのだと思いますが)
音楽は人種差別に対して最も明快に批判的なメディアのひとつですが、実はこのアンケート依頼をもらったとき、たまたまスライ&ザ・ファミリー・ストーンの「Don’t Call Me Nigger, Whitey」を聴いてました。曲の中にはそのタイトルの文句と〈Don’t call me whitey, nigga〉が交互に出てくるわけです。その“刺激的”な蔑称の応酬の中に、凝り固まった観念を超越した次元にこそ開ける未来というものをスマートに予示していて好きなのですが、それも軽くヒントになって、この10曲が頭にダーッと降ってきました。そしたら偶然男女同数になってて、それもバッチリだな、と。
Your Song
Suspicious Minds
Yesterday
We Can Work It Out
I Want to Hold Your Hand
Maggie's Farm
Gimme Shelter
Light My Fire
Listen to the Music
1966年山形市生まれ。音楽ライター、翻訳家。20代前半タワーレコード渋谷旧店ジャズ・バイヤー時代に『レゲエ・マガジン』(タキオン)のライターに採用されて文筆家になる。その後しばらくパリで暮らし、帰国後はフリーランスで執筆、翻訳、ラジオ選曲、書籍制作等々。訳書近刊に『レゲエ・アンバサダーズ~現代のロッカーズ――進化するルーツ・ロック・レゲエ』(DU BOOKS / 2017)、『超プロテスト・ミュージック・ガイド』(ele-king Books / 2018)など。2002年より『ミュージック・マガジン』誌のマンスリー・レゲエ・アルバム・レヴュワー。