鈴木孝弥
Ep.3 / 17 FEB 2020
前回はニック・ロウで終わったのだった。
彼のヒット曲で、かつ、その好きなカヴァー・ヴァージョンがすぐに思い浮かぶのは、まずこれだな、「Cruel to Be Kind(恋するふたり)」。オリジナルを知らないという人はこのヴィデオを観られたい。1981年の8月1日に放送を開始したMTVの、その初日に流れた記念すべきMVの中の1曲らしい。デイヴ・エドモンズ以下、ロックパイル時代のバンド・メイト3名も出演している。
この曲のカヴァーで気に入っているのは2曲あって、まずは紅一点のヴォーカリスト、ケイ・ハンリーが、音信不通になってしまったペンパルのクリオを探すために結成したということで、こんなけったいな名前になったボストンのバンド、レターズ・トゥ・クリオのヴァージョン。ハンリーの声がこの曲にとても合っている。
もうひとつは現代パワー・ポップ界の人気者カート・ベイカーのヴァージョン。昨秋カート・ベイカー・コンボで来日したのに、そのときオレが日本にいなくてライヴをミスったのは残念だった…。彼はソロ名義のカヴァー集『Got It Covered』で「Cruel to Be Kind」を演っていた。
Cruel to Be Kind
2曲とも、「この曲が大好きなんだ!」ってヴァイブスと、よって、気をてらったアレンジは無用、という姿勢がたいへんいさぎよい。ただ、両方とも原曲の解釈は同じでも、パッションの乗せ方が違う。どっちもめちゃくちゃジューシーなんだけど果汁の種類が違う。でもどっちも、何回聴いてもフレッシュだ。
Ep.1で喧嘩するほど仲がいいという話をしたが、この曲もタイトルで明白なように、好きだから冷たくしちゃう、って行為を歌ったものですね。若いときって、めんどくさいこといっぱいあったなあ、と思い出すわけだが、そもそも好きな相手に意地悪したりつらく当たったりするのって、若者特有の行為の気がする。この曲がおそらく永遠にみずみずしいのは、そのへんに理由があるんじゃないか?
で、カート・ベイカーのその2010年のカヴァーEP『Got It Covered』が丸ごと最高なのだ。ザ・ナック「Let Me Out」に始まり、エルヴィス・コステロの「Pump It Up」(これもニック・ロウのプロデュース曲だ)、リック・スプリングフィールド「I’ve Done Evertything for You」、ジョー・ジャクソンの「Is She Really Going Out with Him ?」、ザ・ヴェイパーズ「Turning Japanese」など、1978年から81年までのパンク、ニュー・ウェイヴ、パワー・ポップ名曲ばっかり取り上げているのだが、この『Got It Covered』からもう1曲挙げるなら、オレ的には「Hanging on the Telephone」だな。
Hanging on the Telephone
オリジナルは1976年、LAのザ・ナーヴズ(The Nerves)だが、1978年のブロンディ・ヴァージョンで一気に世に知られる曲になった。カート・ベイカーのこのヴァージョンもブロンディの方に近い。
Hanging on the Telephone
ザ・ナーヴズのオリジナルも悪くないんだけど、少しもっさりしてる。それに最初に聴いたのがブロンディ・ヴァージョンだったし、これまたヴィデオがカッコよくてとても好きだったので推しはこっち。これも恋人の素気無い態度を電話口でとがめている他愛のない曲なのだが、デビー・ハリーの、じりじりして、だんだんがらっぱちになってくる歌い方とスピード感のある演奏が素晴らしい。2分強の性急なヤングネス。ロックン・ロール。
これは78年のヒット・アルバム『Parallel Lines』のオープナーだが、このアルバムからの最大のヒットはこれじゃなくて、ご存知、かの「Heart of Glass」だ。LPを貸レコード屋から借りてきてカセットに録音して聴いてたんだけど、当時、この一番売れた曲が一番好きじゃなかった。でものちにこの曲のヴィデオを観たらニュー・ヨークの夜景が感じいいのと、デビー・ハリーが恐ろしく可愛いのにびっくりしたことを覚えている。その「Heart of Glass」は、最近だと木村カエラがコラボ・カヴァー・アルバム『ROCK』でチャットモンチーと組んでカヴァーしてたよね。
Heart of Glass
『ROCK』はアーハ「Take On Me」の、かっこいい木村カエラ xxx 岡村靖幸ヴァージョンがアルバム・オープナーなので、このアルバムのことはEp.1でも頭をよぎった。
で、このブロンディ・カヴァー。木村カエラが曲にハマってるし、原曲で当時気に触っていた電子ディスコの“ピコピコ”感が最小限に抑えられててスカッとする聴き心地。チャットモンチーの硬派な音はここでも気持ちがいい。音にガッツがあるんだよね(53歳の語彙なんでひとつ)。
チャットモンチーがカヴァーした曲でもすぐに思い浮かぶ好きなやつがある。ブロンディの「Hanging on the Telephone」とは曲の冒頭の電話の呼び出し音つながりだが、アメリカの夫婦インディー・ポップ・デュオ、メイツ・オヴ・ステイト(Mates of State)の2000年のデビュー盤にして結構な名盤『My Solo Project』に入っていた「Proofs」に日本語詞をつけた「夢みたいだ」だ。
夢みたいだ
Proofs
このチャットモンチーのカヴァーを聴いたあとで、両バンドにそこはかとなく近いものを感じることが何度かあった。特にドラムズとかヴォーカルのフィーリング、音の多幸感に。もちろんメイツ・オヴ・ステイトの方が随分サイケでよじれてはいるにせよ。
メイツ・オヴ・ステイトにも結構渋くて好き勝手なカヴァーがいろいろあるんだけど、これも昔、貸レコード屋からLPを借りてきた思い出のあるフリートウッド・マック1977年の大ヒット・アルバム『Rumours(噂)』のアルバム・オープナー、「Second Hand News」をやってるのがかなり好きだ。この重くてラウドなアレンジがバッチリ腑に落ちた。
Second Hand News
Second Hand News
このフリートウッド・マックのアルバムは、バンド内の夫婦もカップルも恋愛関係が破綻してしまった、そのドロドロ劇をみんな互いに曲に書いて一緒に録音したというマゾ趣味なのかカタルシス的なのかよく分からないけど、結局とんでもないモンスター・アルバムになったことで有名。“目の前にいても、もう心が通じ合っていないんだから、きみにとってオレは、ただの風のたよりのようなもの”っていうツラい曲をよくこんなにハツラツとやったものだが、それが純粋なミュージシャンシップというものだろう。ビートルズの“ホワイト・アルバム”的な感じもあって。
アルバム『Rumours(噂)』で「Second Hand News」に続く2曲目が、大ヒット曲の「Dreams」。この曲は昔ラジオの深夜放送、例えば《オールナイトニッポン》なんかで流れるのを、オレオとか囓りながら夜中によく聴いていた。だから今も聴くと口の中にそういう味がする曲だ。
でもって、今回のリストの1曲目に挙げたボストンのレターズ・トゥ・クリオがそのこれまたラウドなカヴァーをやってたのを思い出した。比べるとしたら、こっちはドクターペッパーの味がする。
Dreams
ってことで、Ep.3はレターズ・トゥ・クリオで綺麗に円環だ。図らずもそうなってしまった。(つづく)
Cover Triathlon Ep.3 Playlist
1. Letters to Cleo 「Cruel to Be Kind」
2. Kurt Baker 「Cruel to Be Kind」
3. Kurt Baker 「Hanging on the Telephone」
4. Blondie 「Hanging on the Telephone」
5. 木村カエラ xxx チャットモンチー 「Heart Of Glass」
6. チャットモンチー 「夢みたいだ」
7. Mates of State 「Proofs」
8. Mates of State 「Second Hand News」
9. Fleetwood Mac 「Second Hand News」
10. Letters to Cleo 「Dreams」