冷めても熱いカヴァーの名品について。
武田洋 (eyeshadow)
Ep.14 / 8 Jul. 2025
菊地雅晃スターマイン「時間よ止まれ」 (Cerbera Records)

1978年、矢沢永吉が放った「時間よ止まれ」。作詞は山川啓介、作曲は矢沢自身によるこの曲は、彼の5枚目のシングルとしてリリースされ、初のオリコン1位に輝いた彼のシグネチャーソングだ。
この曲は、資生堂のファンデーション「アクエア・ビューティケイク」のCMソングとして起用されたことでも知られている。同年の夏のキャンペーンで掲げられたコピーは、「時間よ止まれ、まぶしい肌に」。タイトルと商品イメージが重ね合わされたこのフレーズは、時代の空気感を象徴するものとして今も語り継がれている。
そして結果的にこの曲は、硬派なロックのイメージが強かった矢沢にとって、感傷的なラブソングという新たな一面を印象づけることにもなった。
この楽曲を、16分40秒にわたって再構築したのが、菊地雅晃スターマインによる異形のカヴァー。中盤以降、原曲の構成はほぼ原形をとどめない。かわりにそこにあるのは、ゆるやかに浮遊するトラックと、それに重なるように、空間も時間もゆるやかに解けていく感覚だ。
昇天が始まるのは、3分過ぎのフレーズ「めまいの中で」の“で”に、仕込まれた突然の歪みから。
この一撃から現実は反転し、聴き手は静かに〈見慣れた世界の裏側〉へと引き寄せられていく。
やがて、夢の中をさまようようなフルートの音色が現れ、うっすらと施されたダブ処理が音の輪郭をにじませ、淡く揺れる雰囲気を引き立てる。
それは時空をねじって引っ張り、もう戻れない場所へたどり着くような感覚を呼び起こす。
徐々にスローになり、「時間よ止まれ」の執拗な呪文の後、ついに時間は止まる。11分25秒から12分35秒の静寂を経て、聴く者は〈この世界の向こう側〉へと漂い着く。まるで、あらゆる営みが立ち消えたあとの、静まりかえった風景。そこからまた唐突に始まる「時間よ止まれ」は、とても映像的な天国ヴァージョンだ。
このカヴァーは、原曲の〈止まってほしい時間〉を、実際に引き延ばしながら、聴き手を幻の中に留めようとする。
初めて聴いたときから、これはただごとではないと思っていた。時間が経った今、その確信はますます強くなっている。
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