

eyeshadow presents Christmas 2025『聖夜の音楽』
selected by Sohichiro Suzuki (WORLD STANDARD)
2024年に続いて、鈴木惣一朗さんが選曲したChristmas 2025をお届けします。全曲解説とともに、今年もどうぞお楽しみください。
12 Dec. 2025
selected and text by Sohichiro Suzuki (WORLD STANDARD)
ワールドスタンダード
『コモレヴィア』
音楽家・鈴木惣一朗によるアヴァン・ポップ・バンド、ワールドスタンダード。デビュー40周年の記念碑的アルバムにしてキャリア屈指の傑作『コモレヴィア』を発表。
細野晴臣プロデュースで1985年にデビューした時から続くインストゥルメンタル主体の音楽スタイルをメインに、選び抜かれたシンセサイザーの音色や、揺らぐような音響アプローチが印象的な、通算15枚目のオリジナル・アルバム。40年の創作活動を経ても湧き出るメロディ、ハーモニー、アンサンブルが、美しい音楽の『環』を描く。
「はじめに沈黙があり、音楽のあとには、祈りがあると思うのです」
去年に引き続き、今年もお届けします、クリスマス・ソングではない〈聖夜の音楽〉。今年は自分のアルバム制作にエネルギーを費やした1年でしたが、制作に疲れると、このプレイリストをよく聴いていました。誰のためでもなく、自分を解放するために‥。
これは感覚的な物言いですが、常々「音楽は情報ではなく、宇宙のようなもの」と感じます。宇宙という無限の円環(えんかん)の中で、人々は暮らしているわけです。そして、音楽という宇宙の〈前〉にはサイレンス‥沈黙があり。〈後〉にはホープ‥祈りがある。クリスマス~聖夜とは、そうしたことを確認する日なんじゃないかと思うのです。

過去を取りもどす音楽
今では、誰もこの映画のことを語りませんが、SF・恋愛映画『ある日どこかで』(リチャード・マシスン原作)‥ぼくは、いつでも観たくなる作品です。その理由は、劇中、想い出の音楽として何度も流れる主旋律(メロディ)の底力。
作曲は、巨匠 / ジョン・バリー、ピアノ演奏 / ロジャー・ウィリアムスになります‥ぼくはいつも、冬の夜空を歩きながら、この音楽を聴きます。その時、星を見ようとはしない。まず、暗闇に視線を移すこと。次第に星が見えてきます。音楽もまた同様で、沈黙を聴くことで、ハーモニーが聴こえてくる。『ある日どこかで』の音楽は、そんな自然の〈仕草〉のようなことを教えてくれました。

La Loba
ぼくにとっての讃美歌
ぼくにとっての(今年の)讃美歌は、米国人とフィリピン人の両親を持つインドネシア出身のシンガー、サンドラヤティの歌声になります。今まで何度も聴いていますが、彼女の音楽をじっと聴いていると‥「コンテンポラリーの音楽の世界は、もはや(多くの人を惹きつけてきた)20世紀のポップスのマジックを用いなくても、よいのでは‥」とすら感じます。静かですが、すごくドラマチックな音楽で、深いため息が出ます。

Have Thine Own Way, Lord (Solo)
教会に佇むブレイドの響き
巷では、ブライアン・ブレイドのことは、著名なジャズ・ドラマーとして知られていますが、このトラックでは教会の片隅にある足踏みオルガンをひっそりと弾いています。これが、とても良いんです。音楽家には2種類あって、プレイヤー指向の人とコンポーザー体質の人に分けられますが、ブレイドは両方を兼ね備えている才人と言えるでしょう。

America
マフラーを拾うように
冬になると「枯れ葉に落ちたマフラーを拾うように」、サイモンとガーファンクルの音楽を必ず聴きます。彼らの名曲「America」をカヴァーしたのは、イギリスの新しいフォーク・デュオ / ジャック・アンド・デイジー。サブスクリプションで見つけた音楽ですが‥「枯れ葉に落ちたマフラーを拾うように」、彼らの音楽を聴くのです。

Old Friends
最後のジャズ
サイモンとガーファンクルのカヴァーを続けましょう。サックス奏者のポール・デズモンドは、ぼくがジャズの音楽を聴き始めて〈最初〉に好きになった音楽家です。あれから、色々なジャズ音楽を聴いてきましたが、経験としての〈最初〉は〈究極〉となり、近年では「最後のジャズでもいいな‥」とすら感じます。

主は生まれ給いぬ (Christ is Born)
プレセピオの風景音楽
有名な曲ではありませんが、10代の時に、この曲の存在を知りました。美しく、美しく、キリスト誕生の「プレセピオ」そのままの風景音楽だと感じます。

Giuseppe Tornatore Suite: Malena (Main theme)
自分の故郷の音楽のように感じます
イタリアを訪れたことはありませんが、シチリア島の響きそのものだと感じます。ジュゼッペ・トルナトーレ監督による映画『マレーナ』(2000年)の音楽。ポップス愛好家として「ビートルズを好きになってよかった」と思うことは多いのですが、同時に、非ポップスであるモリコーネやルグラン、レイの映画音楽を知れて、本当によかった。郷愁感のある美しいメロディに触れれば、ヨーロッパ諸国の数々もまた、故郷のように感じるのです。

búzios
水の話し声
繰り返されるシンセサイザーのフレーズ、ひそひそとした雨のような、さめざめとした話し声。最近は、インティメイトなムードのブラジル音楽が増えましたが、2人組のアナヴィトーリアも、とても良い感じです。雨の音って、よく聴くと「水の話し声のようだ‥」と感じます。

Christmas Story
暗闇の沈黙
旧約聖書の中に「沈黙」は「神の存在そのもの」として描かれているそうです。そして「暗闇」はヘブライ語で、「ホシェフ(神の隠れ場所)」とされている。アレクシス・フレンチのピアノの響きに身を横たえるだけで、神の恩恵を受けられそうな気がします。

The Christmas Song (Merry Christmas to You)
語りかけている
「語りかけている」‥ペギー・リーの歌声は、ぼくたちに直接、語りかけています。その内容は受け手によって変わりますが、稀有な歌声は、言葉の意味がわからなくても、その響きだけで、凡百のメッセージを超越するのです。マルセル・プルースト(フランスの小説家 / 代表作『失われた時を求めて』)は「人類は言葉ではなく、音楽で心を通い合わせていたかもしれない」と指摘しましたが、言葉を背負わされたぼくたちを解放してくれるのは、ペギー・リーの歌声も、そのひとつ。

Always and Always
見守り続ける音楽
スピルバーグ監督の数多くの作品の中でも、ベストに挙げる人も多い、映画『オールウェイズ』の音楽です。仕事中に亡くなった森林火災消火隊員が、恋人を見守り続ける不思議なドラマですが、サウンド・トラックがとにかく素晴らしいのです。この曲で、ぼくはジョン・ウィリアムズという大作曲家に目覚めました。

El mar
短調でも長調でもない
ヴィクトル・エリセ監督の宝石のような映画~『瞳をとじて』の音楽です。作曲はアルゼンチンの作家フェデリコ・フシド。この作品で、はじめて彼のことを知りました。その音楽は、短調でも長調でもないような。何度、聴いても不思議なもの。それはエリセの映画そのものです。ひたすらに哀しくも、思いきり嬉しくもない。つまらない怒りや、焦りのようなものもない。まるで‥「人生の末路そのものじゃないか」と感じます。

I Say a Little Prayer / By the Time I Get to Phoenix
バカラックとウエッブの出会い
大好きな、大作曲家のバート・バカラックと、大編曲家ジム・ウエッブがマッシュアップされた奇跡のトラック、カントリー・シンガーのアン・マレーとグレン・キャンベルが歌っています。けれども、ポピュラー音楽寄りのシンガーって、なかなかロック・ファンには伝わらないもの。だからこそ「ぼくがもっと聴かないと!」と、いつも思っています。

The Shape of Water
バケモノの愛の物語
映画音楽を数多く手がけるアレクサンドル・デスプラの作品群の中で、ぼくが一番好きなサウンド・トラックです。お話も特別な装いで、米ソ冷戦のアメリカ、極秘実験の水槽で飼われている不思議な生物と、孤独な女性の愛の物語。私感ですが「本当の美しさとは、時にグロテスクな世界の中に潜む」。大事なことを、ギレルモの映像とデスプラの音楽が、ぼくに教えてくれました。因みに幽玄なコーラスは、ソプラノ歌手 / ルネ・フレミングによるものです。

Angélica
どこの国の音楽なのだろう
MPBの代表格のコーラス・グループ、クアルテート・エン・シー。これはもう〈奇跡の詩〉だと感じます。「どこの国の音楽なのだろう」「どこの時代の音楽なのだろう」。人間の声と声を幾重にも重ねてゆくと、無国籍な、全く違う次元の音楽が生まれるのです。ぼくもよく、自分のレコーディングで体験します。

In My Time of Need
音が大きくなっても残る静けさ
カウボーイ・ジャンキーズは、すごく不思議な音響のグループです。どんなに、どんなに音が大きくなっても静かな残響~全く〈うるさくないロック〉って、実は貴重な存在なんです。

Ithaca Suite: VII.
ベッリのピアノが好きです
パンデミックに突入した年から、ずっとずっと、ぼくはベッリのピアノを聴いています。あまりにも素敵なので、ワールドスタンダードの新作では彼女の別曲(「Respiro 6」)をカヴァーしました。曲の最後に‥少しの沈黙(無音)も用意してあります。

Winter Wonderland / Silver Bells
聖夜の音楽
生意気に書かせて頂きますが‥マンシーニって、器用なタイプのコンポーザーではなかった。けれども、アレンジ力は凄かった。ムード音楽スタイルのマンシーニ・アルバムは、数多くリリースされていますが(当たり前のように)いずれもクオリティが高い。けれども非凡な高さというものは、あまりにもスムーズで、無視してしまっている識者の方も多いはずです。ぼくは感じます「それは、すごくもったいない」と。みなさん、マンシーの音楽をもっと聴きましょうよ。
おわりに‥
近年では、ぼく自身の(日常的な)音楽リスニングも、利便性が優先され、みなさんと同じようにサブスクリプション中心になりつつあります。けれども、「何かと常に繋がっている状態」で音楽を聴くということに、身体が耐えられなくなってきました。本来、音楽を聴くときには、ひとりだった。誰とも繋がっていない世界で、ぼくは、いつも孤独でした。そうした孤独の時間の中で、新しい音楽を見つけ、喜び、大切に聴いたものです。こうした思春期の青い体験が、季節が変わる頃になると、ざわつきます。
そんな時、ぼくは、自宅の古いスピーカーの埃を払い、アンプのケーブルを繋ぎ、懐かしいCD盤やレコード盤をひとりで聴くのです。すると、凍結されてしまった‥過ぎ去ってしまった想い出が解凍され、生まれ変わったような気持ちになる。改めて、20世紀の録音再生技術って、大袈裟ではなく‥「不老不死を実現したものじゃないか?」と感じるのです。音響世界では、〈過去〉と〈永遠〉が交差します。年の暮れ、年の明けという、交差する師走。「あなただけの音楽時間」を作って欲しいと思うのです。「さようなら2025年」「メリークリスマス」「みなさん良いお年を」。
- Profile
- 1959年、浜松生まれ。音楽家。83年にインストゥルメンタル主体のポップグループ “ワールドスタンダード” を結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。『ディスカヴァー・アメリカ』3部作は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスから絶賛された。近年では、程壁(チェン・ビー)、南壽あさ子、湯川潮音等、多くのアーティストをプロデュース。執筆活動や書籍も多数。最新音源はピアニスト横山起朗とのコラボレーション・アルバム『maebure』(2024)最新著書『こころをとらえる響きを求めて』(2024)。
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