eyeshadow presents Christmas<br>Deluxe Edition 2024『祈り』<br>selected by Sohichiro Suzuki (WORLD STANDARD)
feature #190

eyeshadow presents Christmas
Deluxe Edition 2024『祈り』
selected by Sohichiro Suzuki (WORLD STANDARD)

鈴木惣一朗さん選曲による珠玉のChristmas 2024。ご本人による一部収録曲の解説と一緒に、どうぞお楽しみください。

6 Dec. 2024
selected and text by Sohichiro Suzuki (WORLD STANDARD)

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2024年も暮れてゆきます。今年は、年初めから災害や災難も多く、世界中の争いは止まらず、誰もが、こころ穏やかに暮らしたとは言えない一年だったと思います。だからせめて、音楽を聴く時間だけは……と。誰からも邪魔されたくないんだ……と。ぼくは虚しい気持ちを抱きつつも、日々、音楽に向かっていた。ここに挙げた、カヴァーを中心としたプレイリストは、そうしたぼくの、かけらのようなもの。祈りのかけら。のようなものなんです。今回、eyeshadowの場を借りて、一時間、みなさんにお裾分けします。

「メリークリスマス」

(鈴木惣一朗 2024年 師走)

・1曲目は、やはり大好きな細野さんのレアトラックから。このクリスマスアンビエントは、細野さんがYMOを終焉させる、暮れなずむ時期に作ったもの。その心境が、音楽に深く込められているのです。

・2曲目は、ダニー・ボイル監督の映画『イエスタデイ』(2019年)の中から。ぼくは今日まで、この映画を何度も観てきましたが、このシーンにはいつも感動してしまいます。それは不思議な感動。ちょっと、自分でも説明できないもの。

・3曲目は、ポール・マッカートニーのジャズクリスマス・アルバム『キス・オン・ザ・ボトム』(2012年)から。多くのアルバムを作ってきたポールの箸休め的な作品ですが、ぼくは大傑作だと思っています。プロデュースは、御大、トミー・リピューマ(2017年死去)。毎年、師走になると聴くアルバム。

・4曲目は、イノセンス・ミッションのギタリストのソロアルバム(『Go When the Morning Shineth』)から、モーリス・ラヴェルの「パヴァーヌ」のカヴァーを。この曲には深い思い出があって、1985年のワールドスタンダードのデビュー盤でも取り上げました。おそらく、生涯のマストソングの『10』には入っているはず、とてもたいせつな曲。

・シンガーズ・アンリミテッドは、スウィングル・シンガーズと並んで、高校時代から好き。当時、讃美歌や古楽なんて聴いていませんでしたが、もはや彼らの響きは、ぼくだけのアンセム。気持ちを整えたいとき、今も聴きます。昔も、今も、これからも。

・ジェーム・ステイラーの歌声は、もはや、ぼくの遺伝子の中に眠っています。それほどまでに、聴き過ぎてしまったと思う。男性シンガーソングライターの中で、一番、好きなクリスマスヴォイスなんです。

・初めてオフィシャルにしますが、ぼくは、オリビア・ベッリのピアノの音を、2024年になってから、1年間、毎日、聴き続けています。日本では誰も知らない音楽家。けれども、誰よりも、たいせつな音楽家。泣き腫らしたあとのような曲ばかり書くコンポーザーでもあり、どのアルバムも素晴らしいものばかり。

・この不思議なECMレーベルの音楽は、知ってからずいぶん時間がかかりますが、最近、再び、聴いています。フィールドワークレコーディングのコーラスとチェロの融合。荒々しくプリミティブなのに、とても、ていねい。洗練されているのに、どこか朽ち果てている。絶妙のバランスに、いつもため息が出るのです。

・才女ローリー・カレンがロン・セクスミスの曲をカヴァーというか、隅々までブラッシュアップしています。愛しのハイラマズの手法にも似ていますが、そのためには高度な音楽知識が必要。極上のアルバム。

・ヘンリー・マンシーニの「ムーンリヴァー」。とても有名なスタンダードナンバーですが、メロディの起伏も少なく、コードの動きも素朴。なのに、聴くたびに、なんて素敵なんだろうと思います。マンシーニの音楽って、もっともっと聴かれてもいいはず。忘れたくない、忘れられない20世紀のメロディの宝庫。

・セリーヌ・ソン監督の映画『パストライヴス~再会』(2024年)の音楽。グリズリー・ベアのメンバーのふたりが作っています。映画もそうだったのですが、何も起こらない音楽という感じ。いつもの風が街を通り過ぎるような、さっと、忘れてしまってもいいトラック。その「なにげなさ」を確認するために、ぼくは何度も聴きます。聴いたことを、積極的に忘れてしまっても、いい音楽なんです。

・自分関連のカヴァーもひとつ。宮崎在住の素敵なピアニスト横山起朗くんとのコラボレーションアルバムから。前曲『パストライヴス~再会』の音楽にも近いのですが、彼の唯一無比のピアノの音は、自然現象、雪がふる音にも近い。雪ふる音には、サウンドはもちろんないのですが、気配のようなものがある。それは、良いことが起こる前の、前兆『maebure』のような感じです。

・愛しのクルアンビンの「賛美歌」というインストゥルメンタル。少し前のものですが、ぼくは好きだなぁ、このムード。この編成で、このエコー感。。こんなアンセム、聴いたことないです。生きる上での、信仰の必要すら考えさせられます。

・数年前、慢性的な耳鳴りを発症した際、混成合唱を主としたビリヤードアンサンブルしか聴けませんでした。「人間の声」というものだけが、人間の痛みを癒すのだと、そのとき知ったのです。そして、その響きは、年の瀬になると必ず聴きたくなるもの。年を越すということには、ある種の痛みがともなうからだと、思うのです。

・サイモンとガーファンクルのデュオって、デビュー時期から独特の「死生観」があった。それは1960年代が終わって1970年代になる架け橋のようなもの。何かが終わって、生まれ、再生してゆく。けれども、その何かも、やがて終わってしまう。そんな流転を、彼らは、二十代から歌っていたのです。

・難病になってしまったスフィアン、今は元気になったのだろうか。1990年代、ぼくは彼の音楽に何度も救われたから。ある意味、ぼくの大事な、道先案内人だったから。いつも気にしている音楽家なんです。

・「ゲイリー・マクファーランド」と口にするだけで、春のように甘い気持ちがする。そのくらい、大好きな音楽家です。彼の音楽は、ポップジャズというくくりになってしまうけれど、ゲイリーは生前、とにかくビートルズが大好きだった。どのアルバムも、ほのかに後期ビートルズの匂いがするんです。春が始まるような甘い感じなんです。

・坂本龍一さんの音楽に触れることが出来なくなって一年という時間が経ちます。それで、聴くたびに、やっぱり「悲しく」なってしまうから、ぼくはもう聴かない。でも、今回のためにアルバム『opus』を聴き、やっぱり「カナシク」なってしまう。きっと季節を巡りながら「悲しみ」は「カナシミ」へ、「哀しみ」へと変化するのだろう。そして、その哀しみは、ぼくの身体に染み入り、坂本さんの音楽は生きようとしていると知る。

・最後は、ワールドスタンダードの『色彩音楽』に収録された「世界の標準」というトラック。コロナ禍に突入したと同時に作った曲です。ぼくにしては珍しく、時折り聴く、自分の音楽になります。「迷うことはないと、纏うことが出来ない……」という短いリリックは、当時の心境を明確に表しています。絶望しながら希望をかき集めた、あの頃。あれから5年経っても、ぼくは希望をかき集めている気がします。止まっている時計が動き出さないのです。来年はみなさんにとって、良い年でありますように、ぼくは音楽で祈ります。

Profile
1959年、浜松生まれ。音楽家。83年にインストゥルメンタル主体のポップグループ “ワールドスタンダード” を結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。『ディスカヴァー・アメリカ』3部作は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスから絶賛された。近年では、程壁(チェン・ビー)、南壽あさ子、湯川潮音等、多くのアーティストをプロデュース。執筆活動や書籍も多数。最新音源はピアニスト横山起朗とのコラボレーション・アルバム『maebure』(2024)最新著書『こころをとらえる響きを求めて』(2024)。
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