New Direction<br>“我が恋はここに: Our Love Is Here to Stay”
feature #147

New Direction
“我が恋はここに: Our Love Is Here to Stay”

ジャズとカヴァーの物語。

福田俊一
Ep.2 / 11 Aug. 2023

←Ep.1

第1回目となった前回の私のコラム、ジャズにはスタンダードというものがあってそれが時代を超えてたくさんのアーティスト / 歌手にカヴァーされている、という話をしました。そんなスタンダードのなかには色んな有名な曲がありますが、私の大のお気に入りでジャズ初心者さんにお勧めしたいのが「Our Love Is Here to Stay」という楽曲。これは1938年公開『華麗なるミュージカル(原題:The Goldwyn Follies)』という米国映画のためにジョージ・ガーシュインが作曲、アイラ・ガーシュインが作詞したのだそうです。その劇中で歌われたのが最初でしたが、その後 50年代初頭に別の映画で取り上げられたときにヒットを記録、人気を博したとのこと。さすがジャズ界にも数え切れないほどの名曲を残したガーシュイン兄弟、素晴らしい曲を書きますね。

ー ラジオや電話、名の知れた映画なんて一時の流行かもしれない。いつか消えて忘れられるだろう。でも、僕らの愛は永遠。これから君とはずっと一緒なんだ
ひとつ言える確実なこと、それは2人を結ぶ愛はこの胸にあり続ける ー(対訳筆者)

話は脱線しますが、Googleで「ロマンチスト 星座 男」と検索したところ、〈魚座の男が根っからのロマンチスト〉と書かれていました。その通り、私も魚座の男。愛を叫ぶロマンチックなこの曲を聴くたびにこの歌詞が私のハートを射抜いて悶えさせます。キュートでスウィングするメロディも魅力的で、ミュージシャンによる演奏も最高ですが歌手によるカヴァーもたまりません。

どれだけ私がこの曲を好きかを語るとあと3日はかかりそうなのでここでやめておきますね。「Our Love Is Here to Stay」の良質カヴァー、私のお勧めはこれらのミュージシャン / 歌手によるものです。

Blossom Daerie ブロッサム・ディアリー

1958年作『Once Upon A Summertime』より

可愛らしい歌声が特徴的な女性ジャズシンガー、ブロッサム・ディアリーが《ヴァーヴ》に吹き込んだ作品から。彼女はピアノを演奏しながら、レイ・ブラウン(b)とエド・シグペン(ds)というあのオスカー・ピーターソン・トリオの2人の伴奏を得ていきいきと歌っています。レコーディング当時は米国で同曲がヒットしてまだ数年後のカヴァーだったわけですが、ディアリーがマイクに向かったのは今から遠い昔、65年も前のこと。2023年の今改めて聴いてもそのラヴソングは私たちの耳に新鮮に響き、色褪せることを知りません。その気持ち良さといったら、幾度も聴いた私も思わず原稿を書きながら縦ノリしてしまうほど。イントロからまさに夢見心地の3分間。騙されたと思って一度ご賞味あれ。

Bill Evans ビル・エヴァンス

1966年作『At Shelly’s Manne-Hole』より

こちらはジャズ界トップクラスの人気を誇るピアニスト、ビル・エヴァンスが《リヴァーサイド》に残した作品に収録。ウェストコーストを代表するドラマーのひとり、シェリー・マンがオーナーでロサンゼルスにあったジャズクラブ=シェリーズ・マン・ホールでのライブ録音アルバム(レコーディングは63年)。曲のはじめ、テーマこそ穏やかに奏でられながらも、ラリー・バンカー(ds)がスネアを一度やや強く打つとシンバルをタンタンと叩きはじめ、それをきっかけにエヴァンスがソロを展開。頭の中に思い浮かぶ譜面なきメロディの絵巻物を、彼はピアノに想いを託すように打鍵してゆきます。理想と現実のはざまで自己と対峙し、音楽的な成功よりも大きな葛藤を抱え、薬物依存など自分と闘った末に亡くなったエヴァンスの生涯は〈時間をかけた自殺〉と例えられました。しかし、そんな彼がこうして軽やかにスウィングして音のポエムを表現する様はひとりの天才以外の何物でもありません。言うなればエヴァンス流のラヴソングはこんな感じだったのでしょう。満場一致で名演に決定です。

Carmen McRae カーメン・マクレエ

1956年作『By Special Request』より

偉大なる女性ジャズシンガーのひとり、カーメン・マクレエが《デッカ》に吹き込んだ1枚からピックアップ。彼女のベストアルバムにも数えられ、ケニー・クラーク(ds)ら一流ミュージシャンを迎えた本作でも「Our Love Is Here to Stay」は取り上げられました。最高の伴奏をバックにレイドバックした雰囲気のなか彼女は余裕綽々と歌い上げてゆきます。マクレエが歌うこの楽曲を聴いていると私の気持ちはこんな感じ。「意中の相手と初めて手を繋いだときの勝ち誇ったような気持ち」「『寂しくて電話しちゃった』と恋人から言われたときの胸のゾワゾワ感」「夢中になって読んだ恋愛小説の最後のページを感動の涙を流しながら読み終えた瞬間」。ワケのわからない例えですが、かんたんにいうならラヴソングでありながらも生きる喜びを私たちに与えてくれるヴォーカル。この温かい気持ちにあなたも包まれてみてください。

(つづく)

Profile
福田俊一(ふくだ・しゅんいち)。1984年、東京都大田区生まれ。レコードコレクターであり、中古レコード店スタッフ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒。大学1年生のとき、体育の授業でラジカセから流れていたL L・クール・Jのラップに心奪われ、ヒップホップ/R&Bに熱中になる。そののち、サンプリングに魅了され、徐々にソウル/ファンクやレアグルーヴにも興味を持つように。大学を卒業すると、レコード収集にハマる。ネタ系を掘り下げるようになった最終結果、次第にジャズに惹かれるようになり、30代前半のときにモダンジャズ最高峰レーベル、《ブルーノート》のほぼ全てのレコードをオリジナルでコンプリートした。
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