軽刈田凡平
Our Covers #076

軽刈田凡平

インド音楽ライター

インドの音楽といえば、ド派手で陽気な映画音楽や古典音楽のイメージが強いかもしれませんが、インドでは近年ヒップホップやロックや電子音楽などのインディペンデントな音楽シーンが急速に発展しています。インドの国民性とも言える圧倒的なノリの良さと、格差や権力に真っ向から立ち向かうカウンターカルチャーとしての熱さを兼ね備えたシーンはとにかく魅力的。
耳慣れないアーティストが多いと思うので、洋楽の有名曲を中心に、今のインドの勢いが感じられるクールでスパイシーな10曲を選んでみました。それぞれの楽曲の後に、アーティスト紹介記事のリンクをつけているので、さらに深く知りたい人はチェックしてみてください。

Mother Nature’s Son
Title

Mother Nature’s Son

Artist
Karsh Kale, Benny Dayal
Original
The Beatles - Mother Nature’s Son
この曲が収録された『Songs Inspired by the film the Beatles and India』は、2021年にリリースされたインドのアーティストたちによるビートルズのトリビュートアルバム。収録曲はビートルズがインド滞在中に作曲されたものを中心に選ばれている。ビートルズがインドの文化や音楽に大きな影響を受けていることは周知の事実だが、皮肉なことに彼らをインスパイアしたインドは、長い間ロック不毛の地だった。インドのポピュラー音楽シーンは、古くから映画音楽の独占状態が続いており、ロックなどインディーミュージックのシーンが発展したのは、2010年代以降。インターネットが普及し、様々なジャンルの音楽を気軽に聴いたり発信したりできるようになってからのことだった。このアルバムは、いわばインドからビートルズへの50年越しの返答でもあるのだ。ポール作の「Mother Nature’s Son」をカヴァーしているのは、90年代からクラブミュージック界隈でも活躍しているインド系イギリス人のタブラ奏者Karsh Kaleと、古典音楽の素養を持つシンガーのBenny Dayal。
のびやかな古典風のヴォーカルやタブラを導入したアレンジは、ビートルズがやりたかったロックとインド音楽の融合を、本場のアーティストが最高の形で実現したものだと言える。
インドからビートルズへの53年越しの回答! "Songs Inspired by The Film the Beatles and India"
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India, India
Title

India, India

Artist
Nikhil D’Souza
Original
John Lennon - India, India
『Songs Inspired by the film the Beatles and India』からもう1曲。聞き慣れないタイトルのこの曲は、晩年のジョンによる未発表曲で、2010年にリリースされたボックスセットに初めて収録されたもの。ビートルズ解散直後には、「God」でインド的思想への訣別を歌っていたジョンが、晩年にこんなにも素直にインドへの思慕を表した曲を残してくれていたと思うと感慨深い。ムンバイのインディーポップシンガーNikhil D’Souzaは、古典音楽風の本格的なインド風味ではなく、いかにもイギリスのアーティストがしそうな「なんちゃってインド」風のアレンジに仕上げている。インドでも都市部の富裕層では、生活の欧米化が進んでおり、本来のドメスティックな伝統ではなく、むしろこういった「欧米目線のインド」にアイデンティティや親しみを感じる若者も増えてきているようだ。ともかく、ジョンがインドへの想いを歌った永遠の未完成曲を、ようやくロックシーンが成長してきたこの国のアーティストがこうして完成させたことを思うと、ぐっと来る。
インドからビートルズへの53年越しの回答! "Songs Inspired by The Film the Beatles and India"
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Night in Tunisia
Title

Night in Tunisia

Artist
The Darshan Doshi Trio
Original
Dizzy Gillespie - Night in Tunisia
インドの古典音楽といえば、悠久の宇宙をたゆたうようなシタールの音色を思い浮かべる人も多いかもしれないが、タブラやムリダンガムといった打楽器のポリリズム的超絶技巧も大きな魅力のひとつだ。コルカタを拠点に活動するギターのRhythm Shaw、ベースのAvishek Dey、ドラムのDarshan Doshiによるトリオは、「Night in Tunisia」をジャズ的なスウィング感ではなく、インド古典音楽由来の複雑な変拍子で再構築。技巧派ギタリストとして活躍するRhythm Shaw(彼の父もミュージシャンで、Rhythmという変わった名前は本名のようだ)は、幼い頃は天才タブラ少年として名を馳せていた。シンプルな編成でジャズのスタンダードを演奏しても、古典音楽出身のインド人アーティストの手にかかるとこんなにも新鮮でエキサイティングになる! まだ見ぬ音楽文化への扉を開いてくれる1曲。
説明不要!新世代の天才!Rhythm Shaw他若き才能たち!
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Modi, A Message to You
Title

Modi, A Message to You

Artist
The Ska Vengers
Original
Dandy Livingston - A Message to You Rudy
スペシャルズのバージョンで有名なスカの名曲「A Message to You Rudy」を、デリーのスカバンドThe Ska Vengersが、モディ首相への痛烈な批判を込めた歌詞でカヴァーした。インドではスカやレゲエはまだまだマニアックなジャンルだが、The Ska Vengersの中心人物Taru Dalmiaは、ジャマイカ音楽を単なるポップミュージックではなく、抑圧に対するレベル・ミュージックとして鳴らすことを明確に意識している。インド経済を急速に発展させた一方で、ヒンドゥー至上主義的な姿勢が厳しく批判されている与党インド人民党やモディ政権は、彼にとって格好のターゲットなのだ。ミュージックビデオでは、モディ首相がグジャラート州首相時代にムスリム弾圧に関わったとされていること、自分の地元経済への利益を優先していると言われていることなどを、軽快なリズムに載せて糾弾している。こうしたラディカルな政治意識・社会意識もインドのインディペンデントミュージックのエキサイティングな魅力の一つだ。
Ska Vengersの中心人物、Taru Dalmiaのレゲエ・レジスタンス
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Tribute to Eminem
Title

Tribute to Eminem

Artist
Emiway Bantai
Original
Eminem - Lose Yourself
日本でも公開された『ガリーボーイ』(2019年)は、ムンバイの実在のラッパーNaezyとDIVINEをモデルにしたボリウッド初のヒップホップ映画で、この作品をきっかけに、インドではヒップホップが一躍脚光を浴びるようになった。『ガリーボーイ』にもカメオ出演しているEmiway Bantaiは、この作品にフィーチャーされた他のラッパーたちのような硬派なストリート / 社会派路線に早々に見切りをつけ、ポップでチャラい要素を取り入れて、一躍人気者になった。(彼の代表曲Firse Macheyengeは、YouTubeで4億5000万回も再生されている!) そんな彼のもう一つの顔が、ベテランから若手まで、あらゆる人気ラッパーをディスりまくるバトルラッパーとしての一面。彼の憧れであるEminemの「Lose Yourself」をリスペクトを込めてヒンディー語でカヴァーしたのがこの曲だ。最初のほうこそちょっと野暮ったいが、オリジナル同様に徐々に熱を帯びてゆくフロウは、2番目のヴァースあたりから本領発揮! 凄まじいスキルを見せつけられて唖然としてしまう。ちなみにEmiwayという名前はEminemとLil Wayneから取ったものだそうで、この超テキトーなネーミングセンスもたまらない。
人気ラッパーEmiway Bantaiとインドのヒップホップの'beef'の話
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Kodaikanal Won’t
Title

Kodaikanal Won’t

Artist
Sofia Ashraf
Original
Nicki Minaj - Anaconda
インドでは、先進国の企業が建設した工場による深刻な被害が数多く発生している。タミルナードゥ州チェンナイ出身のフィメール・ラッパーSofia Ashrafは、多国籍企業ユニリーバが同州コダイカナルに建てた温度計工場によって起きた水銀汚染に対する怒りを、Nicki Minajの「Anaconda」のカヴァー(というか、替え歌)で表している。このバージョンはまたたく間に世界中に拡散し、Nicki Minaj本人もツイートして称賛。その結果、企業側が一刻も早い償いを約束するに至った。Sofia Ashrafは決してずば抜けたスキルを持ったラッパーではないが、サリー姿で有名曲に乗せたプロテスト・ソングをラップして注目を集めるというアイデアは天才的。持たざる者が知恵を使って困難を打開するという方法論は非常にインドらしいやり方だ。インドには社会的に抑圧されがちな女性をエンパワーしようとしているフィメール・ラッパーもたくさんいて(Dee MC, SIRI, Rialanら)、ヒップホップを弱者の社会的な武器として活用するカルチャーが根づきつつあるようだ。
インドで相次ぐグローバル企業による災害にラップで抗議!社会派フィーメイル・ラッパー Sofia Ashraf
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Tempted to Touch
Title

Tempted to Touch

Artist
Zaeden feat. Rupee
Original
Rupee - Tempted to Touch
インド映画のミュージカルシーンを見れば分かる通り、インドは老いも若きも踊ることが大好きなダンス大国。もちろんクラブミュージックも都市部の若者たちに大人気だ。ゴアではアジア最大にして世界で3番目(つまり〈Tomorrowland〉と〈Ultra Music Festival〉の次の規模ということ!)の規模のダンスミュージックフェスティバル、〈Sunburn Festival〉が開催されており、EDMも根強い人気を持っている。この曲を演奏しているZaedenは、デリー近郊のグルガオン出身で、14歳からDJをしていたという筋金入り。2016年には21歳の若さで〈Tomorrowland〉への出演も果たしている。近年はダンスミュージックからポップ路線に転向し、ますます国内での人気を高めているようだ。ボリウッドをはじめとするインドの商業音楽シーンでは、近年レゲトンなどのラテンミュージックへの接近が目立っており、そうした傾向を意識してか、Zaedenもバルバドス人ソカ・シンガーRupeeの一発屋的ヒット曲「Tempted to Touch」のカヴァーを2018年にリリース。オリジナルの記憶がちょうど薄れた頃のいい選曲だが、セレクトの理由はオリジナルを歌ったRupee(このカヴァーにも参加している)のステージネームがインドの通貨と同じだからだろうか。
これはもう新ジャンル 「インディアンEDM(もしくは印DM〈InDM〉)」を大紹介!
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Despacito - Indian Classical Version
Title

Despacito - Indian Classical Version

Artist
Mahesh Raghvan feat. Praveen Prathapan & Janan Sathiendran
Original
Luis Fonsi feat. Dadddy Yankee - Despacito
インドの古典音楽は、伝統に基づいた厳格な徒弟制度や深淵な哲学を持つ一方で、音楽理論に則ってさえいれば、あらゆる楽器を受け入れるという非常に柔軟な一面も持っている。近代以降、インド古典音楽には、ヴァイオリンやサックスから大正琴(!)にいたるまで、あらゆる楽器が取り入れられているが、このMahesh Raghvanには心底ぶったまげた。彼が使用する楽器は、なんとiPad! GeoShredというアプリを使って南インドの古典様式であるカルナーティック音楽を演奏する彼は、古典だけではなく、ハリウッド映画の音楽や欧米のポピュラーミュージックなどの多様な楽曲をカルナーティック・スタイルでカヴァーしている。ここではラテンポップの大ヒット曲「Despacito」を選んでみた。タブラ奏者のJanan Sathiendran、バーンスリー(竹笛)のPraveen Prathapanとコラボレーションしたこのバージョンは、原曲のメロディーを残しつつも、なんの違和感もなくインド風に仕上がっている。後半のインプロヴィゼーションも凄まじく、iPadを巧みに駆使してカルナーティック独特の揺れ幅の大きいビブラートを再現するMaheshは、決してキワモノではない本物のプレイヤーであり、アーティストだ。伝統を守りつつも、新しい要素を取り入れることもいとわないインドの良さが凝縮されたカヴァー曲。
iPadで奏でる古典音楽! 自由すぎるカルナーティック奏者 Mahesh Raghvan
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Dil Se
Title

Dil Se

Artist
Pineapple Express
Original
A.R.Rahman - Dil Se Re
インドは多くの優れたヘヴィメタルバンドを輩出している国でもある。(疑っているアナタはGutslit, Against Evil, Kryptos, Chaos, Girish and the Chronicleあたりをチェックしてみてほしい)南インドのIT都市バンガロールを拠点に活動するプログレッシブメタルバンドPineapple Expressは、卓越した技量と古典音楽からEDM、ラップまで、あらゆるジャンルを融合させた雑食かつマシマシな音楽性を特徴としている。この「Dil Se」は、1998年に大ヒットしたボリウッド映画のカヴァー曲というメタルバンドらしからぬ選曲。インドのインディーミュージシャンたちは、商業的で大衆迎合的な映画音楽を冷ややかに見ていることが多いようだが、この曲を手掛けたA.R.ラフマーンだけは別格。インドの音楽界では坂本龍一と筒美恭平と桑田佳祐を足したくらい偉大な存在である彼は、メジャー、インディーを問わず多大なリスペクトを集めている。最近では、Netflix作品などを中心に、インディーズのアーティストが映画音楽に起用されることも増えてきており、インドでもメジャーとインディーズの垣根は少しずつ低くなってきているようだ。
プログレッシブ・古典ミクスチャー・メタル? Pineapple Express!
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Jingle Bells (Naga Folk Fusion)
Title

Jingle Bells (Naga Folk Fusion)

Artist
Tetseo Sisters feat. Alobo Naga
Original
Traditional
「インド人」というと、浅黒い肌に彫りの深い人々を想像する人が多いと思うが、中国やミャンマーとの国境に程近いインド北東部には、そういったイメージとはまったく異なるモンゴロイド系の民族が暮らしている。インドではヒンドゥー教やイスラーム教の信者が9割以上を占めているが、北東部では19世紀以降に訪れた欧米の宣教師の影響でクリスチャンの割合が多く、文化的にも独自の伝統を維持している。
この曲を歌っているのは、かつて首狩りの風習があったことでも知られる北東部ナガランド州出身のアーティストたち。Tetseo Sistersはチャケサン・ナガ族の伝統的なコーラスを取り入れたスタイルで注目を集めるグループで、Alobo Nagaは洗練された英語ポップスを歌うナガランドの人気シンガーだ。
クリスマスの定番曲に、ナガの伝統音楽の要素を融合してポップに仕上げたこの曲は、我々がよく知るインドとは全く違う世界を垣間見せてくれる。
インド北東部ナガランドのクリスマスソング!
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Profile

学生時代に若気の至りの一人旅でインドを訪れ、街にうずまく混沌としたパワーと人々のバイタリティーに衝撃を受ける。音楽好きだったため、「インド人がロックやブルースやヒップホップをやり始めたらすごいことになるだろうなあ」と思ったものの、当時(90年代後半)のインドでは映画音楽以外は非常にマイナーであり、そうした音楽とは出会えないまま終わる。その後もインドに興味を持ち続けたまま時は流れ、2010年代後半、インドのロック、ヒップホップ、電子音楽等のシーンが非常に面白くなってきていることを発見。2017年12月に「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)」名義でブログ「アッチャー・インディア 読んだり聴いたり考えたり」を開設する。
インドのインディー音楽を中心に、インドのカルチャーや、世界中に出没している謎のインド人占い師「ヨギ・シン」について調査して書いています。都内在住。尊敬する人はタイガー・ジェット・シン。
アッチャー・インディア 読んだり聴いたり考えたり

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