Magictouch<br>(DUPER GINGER)
Our Covers #072

Magictouch
(DUPER GINGER)

レコード愛好家 / DJ

1960~80年代レコード会社主導の企画コンピにはカバー楽曲がよく収録されていました。一概には言えませんが企画に沿う選曲を成立させる為のテクニックとしてカバーが活用されていたのでしょう。
需要にもそこそこ恵まれこの道筋で沢山のカバーが作られましたが、時間と費用がかかるオリジナルのライセンスを避けた前提から、恐らく低予算の制作費だったであろうことは想像容易く、加えて適当なバンド名をつけられたり、名も無きカバーとなるケースもある為、編曲や演奏する方々は心燃やせないザ・お仕事モードだったろうとも想像できます。

そういった背景もあってか企画コンピのカバーはしょっぱい仕上がりが大半となりますが、稀にそうじゃないものが混じったりします。プロデューサー/ディレクターに対するベテランの忖度なのか、チャンスを活かしたい新人の意気込みからなのか、レコード会社専属ミュージシャンの愛社精神からなのか。適当な推測を述べていますが、とにもかくにも、対極にある予算のかかったアーティスト主導のカバーを遥かに凌ぐ、時代を生きぬく強度を持ったカバーが企画コンピにあったりするのです。

ということで、今回〈企画コンピの光るカバー〉と題させてもらい、そんなカバーたちを10曲ほどご紹介させて頂こうと思います。すべて国内アーティストによるカバーとなります(たぶん)。

悪夢
Title

悪夢

Artist
THE BRAIN BUSTER
Original
Stevie Wonder - You Haven't Done Nothin'
『ロック&ポップスベストヒット』より。私が〈企画コンピの光るカバー〉探しに夢中になるきっかけとなったのがこちら。GOOD GROOVEのssmさんに教えて頂き、初めて聞いた時の衝撃は今でも鮮明に記憶に残っています。
このカバーの何がすごいと言えばイントロのシンセのアレンジがすごい。エコー・マシーンやフェイズ・シフターによる奇天烈な反復・増幅音やうねり。疑似ステレオの如く左右に広がる音像定位。強烈な悪夢の世界へと誘ってくれます。
このコンピではTHE BRAIN BUSTERの名義で収録されておりますが、別のコンピではBARRY STEVENS AND HIS ORCHESTRAやCRYSTAL SOUNDSと別名義で同楽曲が収録。カバーのアレンジも演奏も、どこの誰だかは一切詳細不明。わかるのはメーカーが《CBS/SONY》ということだけ。詳細知っている方いたらぜひ教えてください。
スネイク・ヒップ
Title

スネイク・ヒップ

Artist
サウンズ・エースとタヒチアン・グループ(編曲)池田孝
Original
日野皓正 - スネイク・ヒップ
『全国歌謡ベスト=14』より。企画コンピの成功モデルだったであろうヒット歌謡曲のインスト・カバー集。
メジャー / マイナーのレコード会社各社が見た目も選曲も同じ作品を大量に制作・リリース。中古市場にも消費後の残骸が溢れかえり、リユースショップのレコードコーナーの常連さんと言って良しですが、そんな膨大な量ある企画コンピの中から光るカバーをどう探すか。
その一つとして制作に関係した方々のクレジットを頼りに探す手法があると思いますが、こちらに制作担当としてクレジットされている志茂忠男さんはユピテルレコーズで和ジャズの制作をしていた方。恐らくその趣味嗜好からか、通常は選曲されないであろう日野皓正「スネイク・ヒップ」のカバーが収録。トランペットによる主旋律が全編パヤパヤ・スキャットへと差し替えられており、まるで「THEME FROM BLACK BELT JONES」かよってぐらいファンキーで軽快洒脱なカバーとなっています。
編曲でクレジットされているのは演歌方面では著名な池田孝(池多孝春)さん。 演奏を担当したサウンズ・エースとタヒチアン・グループは、映画会社・大映が設立した大映レコードの作品において他いくつかクレジットを確認することができますが、詳細は不明。志茂忠男さんが集めたジャズ系ミュージシャンの方々かなと妄想しています。
ひとりじゃないの
Title

ひとりじゃないの

Artist
ユニオン・オール・スターズ(ドラムス)田中清司
Original
天地真理 - ひとりじゃないの
『ドラム&ビッグ・ヒット歌謡28』より。こちらも同じく制作担当の方の色が濃く出たのかなと思われる企画コンピ。小山ルミさんの制作を担当していたテイチクの松井浩さんがクレジットされています。演奏はドラムの田中清司さん以外ユニオン・オール・スターズ名義で、覆面バンドの仕様。
選曲においては、担当の方ならではの尖った部分は見受けられませんが、今回ピックアップしたこちらのカバーはミュージシャンたちの裁量が大きい。遊びがすごい。イントロ6小節ほどなのですが、田中清司さんのダイナミックでグルーヴ感のあるドラムにのせて、Moogっぽいシンセサイザーのベース音が地響きのようなうねりをあげ続ける狂気を堪能できます。一体何の曲のカバーなのかと錯誤しますし、これでよく松井浩さんも収録オッケーを出したなとほんとに思う。最高です。
恋の季節
Title

恋の季節

Artist
湊孝夫オール・スターズ(編曲)湊孝夫
Original
ピンキーとキラーズ - 恋の季節
『ベスト・ヒット28』より。1969年4月に湊孝夫オール・スターズのアーティスト名義でリリースされるも、そのわずか8か月後の1969年12月にこちらの企画コンピに収録。もう少し間を空けても良かったのではと思いますが、アーティスト名義のセールスが振るわなかったのでしょうか。実際、中古市場でも中々お目にかかれぬ一枚です。しかしピンキー&キラーズ「恋の季節」は当時相当な人気曲だったのでしょうね。歌謡曲のインスト・カバーの企画コンピにおいてかなり高い確率で選曲されています。私もかなりの数の「恋の季節」カバーを聞きましたが、こちらのカバーはアレンジ、演奏ともに別格。湊孝夫さんのジャズ/ラテン・フィーリングのピアノが抜群に素晴らしく、EDDIE CANOなんかのプレイを彷彿させる光るカバーです。
ダイアモンドは永遠に
Title

ダイアモンドは永遠に

Artist
グランド・ワルサー・オーケストラ
Original
三沢郷 - ダイヤモンドは永遠に
『007/ジェームズ・ボンド白書』より。商品化権の許諾は得て制作されたと思いますが、よく権利元は許諾をしたよなと思う007映画サントラ風を装った企画コンピ。ずばり他人の商品と混同を生ぜしめる商品そのもの。今は不正競争防止法もあるし許諾は出ないでしょうね(笑)。収録されている楽曲はJOHN BARRYやLIONEL BART等による原曲と、カバーが混在。正確に言うと、カバーではなくINSPIRED BYと銘打った2次創作楽曲が6曲収録。作曲をしたのは「サインはV」や「デビルマン」の楽曲を手掛けた三沢郷さん。有識者のブログ等を拝見するとどうやら映画化される前のイアン・フレミング小説からインスパイアされて書き下ろした楽曲のようです。その為「ダイヤモンドは永遠に」といえば、SHIRLEY BASSEYが歌っている楽曲の印象ですが、三沢郷さんのこちらは全くの別曲。SHIRLEY BASSEYのとは全く違うジャズ・フルートが大体的にフィーチャーされたミドル・テンポのクール・ジャズとなっており、演奏の面々は詳細不明ですがフルートは横田年昭さんなんじゃないって思うぐらいかっこいい演奏。
イット・ワズ・ベリー・グッド・イヤーズ
Title

イット・ワズ・ベリー・グッド・イヤーズ

Artist
田代ユリ / ポリドール・オーケストラ(編曲)田代ユリ
Original
Bob Shane with the Kingston Trio - It Was a Very Good Year
『ビューティフル・エレクトーン ベストポップスⅡ』より。オルガン、ピアノ、エレクトーン奏者として著名な田代ユリさんのお名前がバーンと出ていますが、選曲は「ゴッドファーザー」や「燃えよドラゴン」なんかの何回も擦られたマーケットイン丸出しの選曲なので、レコード会社主導の企画コンピと判定。
田代ユリさん以外は、レコード会社専属の方々からなるポリドール・オーケストラ名義となっておりミュージシャンたちの詳細は不明。道志郎さん、沖浩一さん、斉藤英美さんなどエレクトーン奏者たちをフィーチャーしてポップスを演奏するという趣旨のコンピはこれまた大量に制作・リリースされておりますが、今回ピックしたこちらは別格中の別格。編曲も担当した田代ユリさんの編曲術によって、TBMの諸作品かのようなモノホン・ジャズに変貌を遂げております。ウッドベースはTBMの作品にて共演している稲葉国光さんとかでしょうかね!? 同企画は第4弾までリリースされていていますが光るカバーこの楽曲のみ。
会津磐梯山
Title

会津磐梯山

Artist
コロンビア・オーケストラ(編曲)若松正司
Original
民謡 - 会津磐梯山
『不滅の戸倉ハル 学校ダンス遺作集 ベスト14』より。大正・昭和期の女子体育指導者であり学校ダンス指導の第一人者であった戸倉ハルさん。今風にわかりやすく紹介するならば、ポカリ青ダンスなど踊ってみた文化の始祖とでも言うべきでしょうか。こちらは、そんな戸倉ハルさん没後に企画・リリースされた遺作集コンピで、学校ダンスの為の楽曲が選曲されています。
編曲を担当しているのは、童謡や子供向けの楽曲といえばこの方=若松正司さん。演奏を行うのはレコード会社専属のミュージシャンたちからなるコロムビア・オーケストラ名義となり、どこの誰かは詳細不明。基本的にオーケストレーションが施されたお上品な学校ダンスミュージックが中心となっておりますが、今回ピックアップした「会津磐梯山」のカバーだけ大分異色。ジャズ・ファンク・テイストあふれる黒いグルーヴ渦巻くアレンジで、ミュージシャンたちの演奏もファンキー。このレコードの演奏で踊る子供たちを見てみたかった。
ソーランブシ
Title

ソーランブシ

Artist
ザ・テレフォン(編曲)中島正雄
Original
民謡 - ソーラン節
『これがリズムなわとびだ!』より。学校ダンスは実用レコードの商圏に落とし込まれ、レクリエーションや運動会の専用音楽に装いを変え、一定の需要を確保。以後、定番となり制作・リリースされ続けていますが、その過程において新たな需要喚起を目的としたっぽい若干突飛なものも存在。その一つがリズムなわとび専用の音楽として銘打たれたこちら。詳細不明の覆面バンド、ザ・テレフォンが4曲ほど演奏をしており、どれも一癖あるのですが今回ピックアップした「ソーラン節」が特にすごいことに。「ソーラン節」なのにヒゲダンスの元ネタであるテディ・ペンダーグラス「ドゥー・ミー」が延々と演奏され本編がしばらく出てこない。中盤ではサンバのリズムに変更し、長尺のパーカス・ブレイクでピュンピュン・シンセが展開。1980年にこんなハチャメチャな編曲を手掛けたのは中島正雄さん(Real Soundに掲載されている「パクり」のクリエイティブ論というインタビューがめっちゃ面白いのでぜひ)ということで納得。ザ・テレフォンの演奏力もかなり高く、特にべースはバーナード・エドワーズばりのファンキーなスラップ・ベースで実に気持ち良い。
サっちゃん
Title

サっちゃん

Artist
ミンツ
Original
童謡 - サッちゃん
『ドレミファブック 10』より。出版社である世界文化社が絵本にレコードを付属させる形式で販売していた企画コンピ。絵本が主役ですから、そちらに合わせた童謡楽曲が基本的に選曲されているものの、たまに当時のヒット歌謡曲のカバーなんかも脈絡なく混入。
クレジットは、歌唱者の表記のみとなり編曲や演奏者は詳細不明ですが、こちらの「サっちゃん」のカバーはモールス信号のようなシンセサイザーのシーケンスも飛び出す本格的なソウル/ディスコ風のアレンジ。歌唱者のミンツさんもハッハーなんてそれ風のコーラスも交えながら「サっちゃん」を歌唱。この「サっちゃん」に衝撃を受け、他の沢山ある「ドレミファブック」もすべてチェックしましたが唯一の変異種でした。となると、レコード会社の意図やディレクションがあったとは到底思えないので、たまたまその筋のわかっているミュージシャンたちがスタジオに集まっていて、ノリで作られたのだろうと推測。
証城寺の狸ばやし
Title

証城寺の狸ばやし

Artist
ブレッスン・フォー(編曲)上田力
Original
平井英子 - 証城寺の狸囃子
『歌でおぼえる動物図鑑』より。最後の光るカバーは、動物名が付いている童謡をかき集めてカバーした企画コンピから。アニソン四天王として名高い前川陽子さんやベテラン・コーラス・グループのザ・ブレッスン・フォーさんなどが歌唱者として参加。演奏しているミュージシャン表記は一切ないものの、編曲を手掛けたのはすべて上田力さん。どの楽曲も上田力さんらしいソウル、ジャズ・ファンク調の編曲が施されておりますが、こちらの「証城寺の狸ばやし」は頭ひとつ抜け出た仕上がり。
歌唱を担当するザ・ブレッスン・フォーさんは、楽曲アレンジの雰囲気に寄せてくるかと思いきや、一切気負うことなくクラシカルに「証城寺の狸ばやし」を歌い上げており、そのギャップが唯一無二のグルーヴを生み出しています。
Profile

1978年生まれ。CD / レコード・ショップ勤務を経て現在は某ミュージシャンの会社に所属。暇さえあれば大小様々のリユースショップでレコードをディグ。ときに解体屋から廃品回収の方々ともレコードの為に密接にお付き合い。今の所は趣味の範囲。和モノのブレイクを多数サンプリングしてメガミックスした『KYOSOKU』シリーズが成果物。ディグしたレコードはその都度Instagramに掲載中。
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