プリンス・バスターは一般的にも評価が高くて、ジャマイカンミュージックが好きでこの人のことを悪く言う人はほぼゼロ。誰も文句なしの〈キングオブブルービート〉〈ルードボーイのヒーロー〉です。いまさら取り上げる必要もないのかもしれませんが、まずはそのルードなイメージを決定付ける有名な逸話をカヴァー曲とともにご紹介します。
1938年にキングストンで生まれたプリンス・バスターは、幼少の頃からボクシングをはじめ、腕っぷしには相当な自信があってコクソン・ドッドのダウンビート・サウンドシステムで用心棒を務めます。当時からサウンドシステムは邪魔のしあいや嫌がらせ、喧嘩、暴動が毎晩多発。そこでいざこざを取り仕切り、コクソンを守ったのがバスターだったという話。みんな大好きでとても有名な逸話ですね。ボクサーとしてはプロではなかったそうですが、あのモハメド・アリとスパーリングをしてアゴに一発お見舞いしたっていう素敵なエピソードもあります。
そんなバスターですが、1960年代初頭からプロデュース/シンガー業をスタートさせます。いまはむかし、シャギーが1993年に大ヒットさせた「おぉキャロライナ」の元ネタであるフォークス・ブラザーズ「Oh Carolina」をプロデュースしてたのがこの最初期の代表作。
ここで、ちょっと待った! フォークス・ブラザーズというのはカウント・オジーらラスタのナイヤビンギドラマーを含むメンツで、この「Oh Carolina」もご存じのようにナイヤビンギ調の曲です。しかし、プリンス・バスター自身はまったくラスタファリアンではないんですよね。ラスタじゃないのにラスタミュージシャンを起用する、ここにプリンス・バスターのプロデューサーとしてのクールさと、ルードイメージの裏に隠れたハイセンスさの源流があるんじゃないかと思います。それまで誰も、大衆が聴く音楽としてレコード化することなど考えなかったナイヤビンギなのに、上手くプロデュースして、しかもしっかりヒットさせたんですから。
そして続いて1963年にリリースした最初のアルバム『I Feel The Spirit』、これもまた重要。あまりのセンスの良さと幅広い音楽性に驚きます。アメリカのR’n’B をルーツとした、当時のオーセンティックなヴィンテージジャマイカンとは感触の異なるオリジナルサウンドです。
リコ・ロドリゲスをフィーチャーした「Soul of Africa」なんてジャズともラテンともブーガルーともつかない感じだし、名曲「Time Longer than Rope」はサイケというかガレージというか、ワイルドで妖しいファンキーロック&ソウルフレイヴァーがあるし(ちなみにこのアルバムの上部には〈SOUL ROCK STEADY〉のキャッチコピーが)。他のスカに比べていまも古さを感じさせないんですよね。これが1963年っていうのがすごい。その後、1960年代後半のロックステディ時代に入っても、典型的なスタイルに陥ることないバスターの才能はキラリと光って、あの「Let’s Go to the Dance」なんてこの人にしかできない、奇跡的なロックステディとしか言いようのない名曲を残します。
もともと1950年代末から自身でもレコード店《Prince Buster’s Record Shack》を経営していたバスターは、1970年代になるとレコ屋とジュークボックス稼業の商売が中心となり、音楽活動はあまり活発ではありません。ところがひとつ忘れてはいけないことが。
それは1970年代の前半にリリースしたダブアルバム『The Message Dubwise』。一般的なプリンス・バスターのイメージとは少し離れた感触の音色を持ったアルバムです。1960年代にはビッグ3として競い合ったコクソン・ドッド《スタジオ・ワン》、デューク・リード《トレジャー・アイル》がそれぞれロックステディリディムのダブアルバムをリリースしたのに対して、バスターのダブLPは当時の空気を色濃く反映したタフなレゲエリディム。これがかっこいいんですよ。
『Aquarius Dub』とか『Macka Dub』とか、最初期のダブアルバムは名盤オンリーですが、それらに勝るとも劣らないストイックで荒々しい男気満杯のワイルドダブ。プリンス・バスターのイメージと違う音と書きましたが、ここにもやっぱり彼ならではのルード魂が生きています。じゃなきゃこんなデンジャラスな音は生まれない。同時期にDeeJayのビッグ・ユースらをフィーチャーした『Chi Chi Run』というアルバムも出していて、こちらもオススメです。
1980年代に2トーンブームが来て復活しますが、1970年代のリリースはだいたいこのあたりまででしょうか。ネットで調べたところによると、アルバムとしてリリースされたものが23枚、シングルは1962年から1967年の間だけでも600曲以上リリースしています。
豪快なバカなら憎めないヤツ程度の扱いだけど、〈豪快かつクレバー〉となれば、そりゃ男が憧れるのも当たり前。明らかに彼は〈頭で考えて〉音をつくってました。〈ルードボーイヒーロー〉の一面だけでなく、プリンス・バスターのそんな頭脳派(でも見た目は恐い)なところに男はみな惹かれるのです。
Message From a Black Man
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「週刊0152」第56号/レゲエ追求コラム第4回(2003年1月9日)を改訂