Branco Label
Our Covers #031

Branco Label

レーベル運営
策略の糸
Title

策略の糸

Artist
新保牧代
Original
鈴木一記 - 策略の糸
「人に踏みつけられても君は平気なのか?」
もちろん、嫌だろう。でも踏みつけられることにすら気づいていないのかもしれない。なぜ気づかないのか。それとも単に動けなくされてしまったのか。いずれにしても、それが策略――だとしたら?
40年以上たった今でも本曲の歌詞は有効である。むしろ刺さる人は現代のほうが多いのかもしれない。
数多のフォークコンテストで賞を総なめしていったカリスマ女子高生、孤高の天才・新保牧代が20歳になってのデビューシングルで、その楽曲をカバーするに至った心境はもはやだれにもわからないが、きっと、共感したから。そりゃわざわざカバーするんだから当たり前のことかもしれないが、あの新保牧代が共感したのだ。その意味を考えたくもなる。
Gracias A La Vida
Title

Gracias A La Vida

Artist
Los Grillos
Original
Violeta Parra - Gracias A La Vida
ヌエバカンシオンの先駆者、ヴィオレータ・パラの代表曲「人生よ、ありがとう」。
原曲のチャランゴの音の粒がキラキラとこぼれ落ちる素朴な美しさも愛おしいが、厳格なプログレアレンジで聴かせるロス・グリロスによる本曲もたまらない。自分の場合、普段鼻歌で出てくるときはこっちのバージョンの場合が多い、頭の中ではイナたいアナログムーグのサウンドも一緒に響く。
77年のボリビアでの録音。同年のチリではこの楽曲を演奏することは無理であったことを考えると、その意味も重くのしかかる。
En El Rio Mapocho
Title

En El Rio Mapocho

Artist
Machitun De Chile
Original
Victor Jara - En El Rio Mapocho
ヌエヴァカンシオンの代表格、ビクトル・ハラのこの楽曲によって彼らの1stアルバムは幕を開ける。それが何を意味するのか…、時代背景、彼らの境遇を知れば、その思いにも気づかされやすいであろうが、この美しい演奏を聴くだけでも伝わる何かがあると思う。
サンポーニャ、ケーナ、チャランゴの音は弧を描くように宙に響く。
Caminar En La Lluvia
Title

Caminar En La Lluvia

Artist
Hojas
Original
Badfinger - Walk out in the rain
ウルグアイ。近年では〈世界一貧しい大統領〉の異名で知られた元大統領ホセ・ムヒカ氏の国ということで認知している人も多いかもしれない。心に残るスピーチを残してくれて、その功績も大きい。
しかし75年のウルグアイといえば軍事政権下。ムヒカさんも政治活動の末、収監されていた時代である。そんな中でもウルグアイではどうにかロックのレコードを出すことはできたようだが、ミュージシャンたちのその心中は幾許のものであったか。でもこのバンド、オハスはそんな中でも桃源郷のごとき甘美な音を聴かせてくれる。
バッドフィンガーの曲をスペイン語アレンジしたもの。原曲も十分メロウな楽曲であったが、ドラムは曲の輪郭を保つメリハリを持った演奏であった。しかしこちらではドラムもなんだか緩く、伴奏もアコギではなく甘々なクリーントーンのエレキギター。そしてバッドフィンガーにも負けない…というかもはや別種の孤高の美しさを確立しているオハスならではの芳醇なコーラスワークにより、一つの夢の世界を描ききっている。ドリーミーとはまさにこれのことだ。
今あなたには夢がありますか?今あなたは夢なんか見てられないくらいの逆境に立たされているかもしれない…でも、彼らの置かれていた状況、そして作り上げたこの音源を聴くと、夢をなくさず生きていきましょうって、そう言いたくなる。
Crossroads
Title

Crossroads

Artist
Mick Stevens
Original
Robert Johnson - Cross Road Blues
Mickさんの作品の真骨頂は、その類まれなる集中力によって生み落とされた宅禄多重録音のマジックにこそある、とも言いたいが、当時は壮絶なライブパフォーマンスでも周囲をうならせていたらしい。
そんなMickさんがライブでいつも披露していた十八番の一つがこのクロスロードだったという。原曲は高度なテクで知られるロバート・ジョンソンの楽曲でもあるが、Mickさんはさらに自分なりにスピーディーにアレンジして流れるようにそのギターテクニックを聴かせる。相変わらずの美しい声とともに、ただただ圧巻。
ライブ前のリハで録った音源らしいが、客席を前にしたテンションでの演奏も聴いてみたかった。というか、時代的にも到底叶わぬことだったとはいえ…ライブを観てみたかった!
SYさん
Title

SYさん

Artist
尾崎豊
Original
因幡晃 - SYさん
尾崎はフォーク少年だった。デビュー後は時代のポップロックアレンジでその楽曲は彩られていったが、ソングライティングのセンスには本曲のような70年代フォークのニュアンスがときどき垣間見えることもあり、このカバーには納得させられる。
しかしそれにしても、14歳にしてこの声、この表現力、である。Asakadanなるバンド名を名乗っていたころのアマチュア時代の発掘音源。
お世話になりました
Title

お世話になりました

Artist
大槻ケンヂ
Original
井上順 - お世話になりました
たびたび、本曲が収録されているアルバム『I Stand Here For You』の感想を街中などで急に話しかけられ聞かされることがある、と大槻ケンヂさんは自身の著書で書いているが、ご本人としては、ちょっとおかしかった時期に作った作品であること、過去の作品であること、から、いかにその作品で救われたかを力説されても、あまりうれしくなかったりするらしい。
しかしそれはそれでよいと思う。アーティストは常に変化していき進んでいくべきだし、本作が多くの人の命を救った事実は変わらないのだから。
意外にも原曲とほぼ変わりない編曲である本曲は、しかし原曲とは別種の感動を与えてくれる。それは他のアルバム収録曲との流れで聴くからこその効果なのかもしれないが、この時の大槻さんの穏やかなボーカルにはギリギリの人間が持つ何か…魂の叫びだとか、筆者ごときにはそんな陳腐な表現でしか言葉では言い表せられないような、筆舌にしがたい壮絶な思いが滲み出ているように感じられてならない。
あなたがいつかもし生きることを諦めしまいそうになった時には、一度思いとどまって本作を一回聴いてみてください。
何日君再来
Title

何日君再来

Artist
CHAGE and ASKA
Original
周璇 - 何日君再來
音楽を聴くときに音だけを意識して鑑賞する人っていうのはほぼ皆無であろう。その音にまつわる予備情報がどうしても頭に入ってきてしまう。誰がやってる音楽なのか、どんなジャケのレコードの曲なのか、どれくらい売れてる曲なのか、だれだれが良いと言ってた曲だ、だとか…etc。たまたまラジオから流れてきた知らない音楽だって、少なくともラジオで流されるくらいに知名度があったりする音楽なんでしょ、などと無意識に察してしまう。常にそういった予備情報によるバイアスをとおして音を鑑賞してしまうわけであり、むしろ純粋に音だけで音楽を鑑賞することは無理であると割り切り、その音にまつわる情報を積極的に意識して鑑賞するのも一つの聴き方として決して間違いではない。
この楽曲は中華圏において絶大な知名度と支持を得る有名曲である。日本人として前人未到の初のアジアツアーに挑む際に、ASKAはいくつかチェックした現地の楽曲の中でたまたまこの曲を気に入りカバーすることに決めたそうだが、そこまで皆に支持されている楽曲であったということはその時にはまだ知らなかったそうだ。
ASKAが一小節目を歌いだした途端の観客達の意外さと歓喜の混じったどよめきには、その楽曲の持つ意味、チャゲアスのここに至るまでの背景など、音以外の予備情報を踏まえて、感動する。そしてもちろん、そこから続くさすがの歌唱にも。
恋愛サーキュレーション
Title

恋愛サーキュレーション

Artist
やなぎなぎ
Original
千石撫子(花澤香菜)- 恋愛サーキュレーション
物語シリーズはアニメでひととおりチェックしているが、私の推しキャラは別に千石撫子ではない。しかしこの原曲のキャラソンは、ある一つの究極に至った楽曲であろう。なんてったってCV:花澤香菜さんである。声のキュートさで言えばこの上なしの一人であろう。そしてその声をとことん際立たせるポップソングとして恋愛サーキュレーションは未だに多くの人々を魅了し続けているし、私も魅了されたその一人だ。
完璧さがある楽曲をカバーする際には、原曲とはまったく異なるアプローチに編曲してしまうというのも手ではあるのだが、やなぎなぎさんはなんとほぼ原曲どおりの方向性のアレンジで本曲を発表した。アルバム『エウアル』のボーナスディスクに収録という、いわゆるおまけ的な扱いなのかもしれないが、花澤香菜さんとはまた違った声の魅力を持つやなぎさんは、自身のオリジナルソングと変わらぬ気概で見事に楽曲を成立させている。元々シンガーソングライターで、自身でも楽曲を書く一方、他の作曲家提供曲を中心に活動をされているやなぎさんは、いわゆる歌専門の歌手よりも各楽曲への理解は深いであろうし、他人が作る楽曲を歌うのにも慣れているはずだ。その両方をこなすスタイルであるからこそ、各カバー曲の完成度も高いのだと思う。
アニメ『やはり俺の青春ラブコメは間違っている・完』の放送延期とともに発売が延期してしまったやなぎさんによる新曲主題歌の発売も楽しみにしつつ、過去作を振り返り鑑賞してみる2020年4月である。
遁生 (白昼夢ver.)
Title

遁生 (白昼夢ver.)

Artist
Syrup16g
Original
エレファントカシマシ - 遁生
例えば、ゴッホの絵画を写実的ではないから良くない、と言う人もいるであろう。何であれが名画と呼ばれてるの?なんて。他に分かりやすい例としては…冨樫義博氏の漫画『HUNTER×HUNTER』は絵が雑だから良くない、という人だとか。Syrup16gのライブを観た人の中で、ギターソロでミスってただとか、歌が上手くないだとか、そんな理由で非難する人がたま~にいる。それは前述したような例と同じようなナンセンスさであろう。私を含むシロップのファンはべつに上手い演奏が聴きたくてシロップのライブに行くのではなく、良い音楽を聴くためにシロップのライブに行くのである。
『HUNTER×HUNTER』の単行本は、雑誌掲載時より丁寧に描き直された原稿が採用されているのが常であるが、雑誌掲載時の雑で勢いがある絵のほうが良い、好き、という読者も少なくはない。シロップのスタジオ録音アルバムは全てずば抜けた名盤であるが、丁寧に録音編集がされており、ライブのような雑さ、不安定さは少ない。それは一般的に考えれば当たり前であるが、『HUNTER×HUNTER』の例と同様に、ライブで発揮されるシロップの持つ生(ナマ)の良さを少し隠してしまう形にもなってしまっている。
上手い演奏が良い音楽、音程が合っている、テンポが走らず安定してる、総じてミスがない…音楽をやるうえで当たり前に良しとされているそれらは、本当に良い音楽を作るうえで必要なのだろうか。あくまで「良い音楽を作る」という目的のみを本質に置くならば、それらは問題ではないと思う。もちろん上手くて、音程が合ってて、テンポも安定してて、ミスがなくて良い音楽だってたくさんあるし、むしろそういった形で良い音楽として成立しているものが多いからこそ、それらが疑う余地のない常識となってしまっているのかもしれない。しかし良い音楽が成立する方程式はそんな簡単な式ではなく、ミスや雑さがむしろ良さにつながる可能性も孕む複雑なものなのであろう。
私はその常識を憎む。なぜなら例えば。ギターをやってみたいと手に取ったもののすぐに挫折してしまった人はごまんといる。その理由を聞けば、Fのコードが押さえられなかった、なんて理由が大半だ。Fが押さえられなければギターは弾けない、良い音楽は作れない。果たして本当だろうか?例えばラルクのHydeさんは自身の著書で、いまだにFまともに押えられないもん、と冗談めかしつつも綴っている。ラルクは、世界中からの多くの支持を考えれば日本でもっとも有名なロックバンドともいえる。そのフロントマンが、そうなのである。音楽をやるならば、○○ができないといけない、だとか、良い音楽とは○○である、だとかそういった常識に騙されたせいで、音楽を辞めていった埋もれた才能がいたかもしれないと思うと、そのもったいなさに気が狂いそうだ。その程度で辞めるなんてその程度のやつらさ、なんて考えもあろう。しかし自分はそれは単に根性論だったり、若さゆえの軽率さであったり、本質的なポテンシャルの良し悪しに直接関係するものでもないであろうと思う。
シロップが公式に発表した音源の中でも珍しいカバー曲である本作は、非常識である。しかしそれゆえ、良い音楽とは何か、と思索するために。そしてsyrup16gというバンドの魅力、さらには五十嵐隆さんの天才性の秘密を紐解くために重要な参考資料にもなりうる名作である。
本作はなんと五十嵐さんの自宅の風呂場で一発録りされた弾き語りである。Syrup16gの名義ではあるが、五十嵐さんのアコギと歌だけ。簡易的なデジタルレコーダーで録られただけであろうローファイな音質、ガサゴソ物音、遠く車の走る音も聴こえる環境音…そしてまともに弦が押さえられていないビビったアコギの音、クリック音なんか聴いてるわけがない呼吸に合わせて自由に緩急がつくテンポ、かすれたり裏返ったりするのもお構いなしな歌、ああ、しかしそのどれもが一つの魅力的な音楽を成立させるための要素として絡み合い紡がれていく…これはシロップがライブで見せるその本質と同じであろう。
シロップの魅力、素晴らしさは、五十嵐さんのその奇妙かつ甘美な作曲センス、そして中畑大樹さんとキタダマキさんによる凄腕かつビンビンに冴えわたるリズム隊の演奏もあってこそであるが、本作にはそれらの要素がないわけだ。しかし結果として本作はシロップならではの名演になっている。もちろんエレカシ宮本浩次さんによる原曲のソングライティングも素晴らしいが、五十嵐さんは自分なりの演奏スタイルに楽曲を落とし込んでシロップらしい音へ昇華させている。それはもしカッチリとスタジオ録音をして、演奏ミスなく、高音質に仕上げていたとしたら消えていたかもしれない、シロップならではな魅力によるところが大きい。3ピース時の黄金比がかなわない状況で、別の方法論を感覚的に選び実践し、良い音楽へと帰結させている。人間というものの不完全さすらも美の黄金比に当てはめることができることを実感させてくれる美しい音楽。
それにしてもこんな非常識な演奏、録音を提出したシロップサイド、そしてそれを採用してCDに収録したエレカシと出版元サイドのセンス、気概にも拍手を送りたい。ShaggsやJandek等が許容されているアンダーグラウンドシーンでのことではないのだ。この非常識さが今よりももう少し音楽にまつわる常識を変えていってくれたらなぁ、と、五十嵐さんのよれた声を聴きつつ思い、しかしシロップが居てくれさえすれば、別にどうでもいいかな、と思い直すのであった。
Profile

Branco Label (ブランコレーベル)。音楽好きで、主にsyrup16g、チャゲアス、尾崎豊、ラルク等のJロック/ポップを愛聴する傍ら、‘70年代の世界各地のロック/フォークの埋もれた名盤の探索を嗜む。特に南米とドイツ、日本国内の作品を好む。その趣味の延長で再発専門レーベル・ブランコレーベルを運営。国内外の埋もれた名盤を地道に再発し続ける。’20年には新進気鋭のインディーレーベル「レコードの目」との共著で『和ンダーグラウンドレコードガイドブック』という著書を上梓。
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